OTC薬協刷新懇談会

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健康寿命の延伸は「セルフメディケーション」では不可能

2019年8月28日のブログで「健康寿命の延伸は「セルフメディケーション」では不可能で、「セルフケア」でしか成し得ないと考えています。」と述べて、その理由は後日と書きましたので、今回は健康寿命を考えてみたいと思います。

2018年10月に厚生労働大臣を本部長とする「2040年を展望した社会保障働き方改革本部」が設置され、その中の「健康寿命延伸タスクフォース」の下にある「健康寿命のあり方に関する有識者研究会」(座長辻一郎東北大学教授)から2019年3月に報告書が出されました。この報告書や他の報告から、先ず健康寿命を阻害している要因を考えたいと思います。

健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことと定義されています。ではどのようにして算出しているかというと、3年に一度行われている国民生活基礎調査のデータが使われています。調査票の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」の質問に対して、「ない」と答えた人を「日常生活に制限がない」とし、そこから「日常生活に制限のない期間の平均」をだして、健康寿命を求めています。定義や算出方法は色々と議論のあるところかもしれませんが、ここでは健康寿命を「日常生活に制限がない」と単純に考え、それを阻害する要因を考えてゆきたいと思います。

この報告書にも記載されていますが、2007年の国民生活基礎調査データを利用して、「日常生活の制限」と「38 種類の傷病」との関連を検討した研究(Myojin T, et al. J Epidemiol 2017; 27: 75-79) によると、日常生活の制限に影響を与える疾患とその割合は、腰痛症(13.27%)、関節症(7.61%)、目の病気(6.39%)、うつ病やその他の心の病気(5.70%)が上位を占めていました。

(公社)日本WHO協会が平成30年3に開催した健康寿命に関するフォーラムで、名古屋大学老年科葛谷教授が話された、平成25年国民生活基礎調査に基づいて要介護になる要因をまとめたものは、健康寿命の定義とは少し違いますがわかりやすい説明だと思います。それは、脳卒中、心臓病、呼吸器疾患、糖尿病関連、がんなどいわゆる生活習慣病が30.5%。認知症、高齢による衰弱(フレイル、サルコペニア)、関節の病気、骨折転倒などいわゆる老年症候群が51.9%となっています。つまり若いうちから進行する生活習慣病と高齢になって発症する中枢系や運動系の疾患が健康寿命を阻害する大きな要因だということです。

国外の研究では、ワシントン大学健康指標評価研究所(IHME)が188ヵ国で1990年から2013年にかけて実施した、大気汚染や不健康な食事などを含む79項目の健康をおびやかす危険因子について解析した調査研究(Lancet. 2015 (15)61455-6)では健康寿命を縮めている最大の要因は、「不健康な食生活」「高血圧」「喫煙」「肥満」「糖尿病」であると述べられています。

これらの報告から考えると、健康寿命を阻害しているのは、認知症など中枢神経系や、骨折、フレイル、サルコペニアなどの衰弱を含む運動系、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病のような生活習慣病であり、そのベースにあるのが食事や運動、肥満、喫煙などだということがわかります。

しかし、冒頭の報告書に記載があるように「生活習慣等が健康寿命に与える影響は明らかとなりつつある一方で、社会的要因等が健康寿命に与える影響についての研究は蓄積途上である。」とされており、健康寿命を阻害するすべての要因が明らかになっているわけではありません。私は個人的にはストレスなどのメンタル面、生活の上での社会面(人との交わり)なども大きく影響しているのではないかと考えています。

さて、健康寿命を阻害している要因が理解されつつある中、健康寿命延伸を考えたとき、どのような活動が必要となるでしょうか?

当然、健康寿命を阻害している要因に対して対策を取る必要があると考えるのが普通だと思います。健康日本21(第二次)ではその基本的な方向の第1番として「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を中心的課題として挙げています。これを生活習慣の改善や社会環境の整備によって達成すべき最終的な目標とし、栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙、歯・口腔の健康に関する生活習慣の改善及び社会環境の改善によって成し遂げようとしています。健康寿命を阻害している要因が複合的で、生活習慣である食事や運動、睡眠、社会性など日常の生活まで立ち返って介入しないと、健康寿命の延伸はおぼつかないと言うことで、長期にわたり困難な活動を強いられています。健康を標榜する活動は、自治体が行う地域住民に対する活動や企業が行う健康経営などの活動も、多くの活動は少しでも健康になる方向へと、生活習慣を変えるということに取り組んでいます。

さて、ようやく本題です。

セルフメディケーション」は健康寿命を延伸できるでしょうか?

どのようなOTC薬を使用してセルフメディケーションを実行すれば、健康寿命は伸びるのでしょうか?

どのように考えてもセルフメディケーション健康寿命を延伸できるとは思えないのですが。

OTC薬は風邪、頭痛、間接の痛み、花粉症症状など自覚症状の改善に役立つものは多く、QOLの改善に働いていることは間違いないと思いますが、セルフメディケーションを推進し、OTC薬が積極的に使われるようになると、どのようにして健康寿命の延伸につながるのかが理解できません。

万が一、セルフメディケーションによって健康寿命の延伸につながるとするなら、セルフメディケーションによって、健康リテラシーがあがり、それで、結果としてセルフケアにも取り組むことにより、生活習慣の改善が起こり、健康寿命の延伸につながることはありうるかもしれません。しかし、それなら、そんな回りくどいことをせずに、セルフケアを推進する活動をすべきでしょう。逆に、セルフケアを推進すれば、軽疾患などはOTC薬を利用するセルフメディケーションの動きは自然と出てくると思います。

セルフメディケーション税制のところでも主張しましたが、セルフメディケーションによりどのようにして、生活者を健康寿命延伸に導くかを、エビデンスを持って説明しないと誰も信用してくれないと思います。その努力もしないで「セルフメディケーション健康寿命延伸を!」という空虚なスローガンを言い続けると、第3者から見ると無知か、ペテン師かと思われるのが落ちです。

セルフメディケーション健康寿命延伸を!」と声高々に話しているOTC薬協関係者の方、どのような秘策があるのかを教えてください。