OTC薬協刷新懇談会

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セルフメディケーション税制でかぜの諸症状の対象拡大が認められてもOTC医薬品市場が伸びない理由

2021年2月14日のブログ「セルフメディケーション推進に関する有識者検討会について」において、「かぜの諸症状が認められても、五十嵐参考人の試算のように403億円医療費が減少し、OTC医薬品市場が伸びることは、現実には起こりえないと考えています。これについては後日記載したいと思います。」と記載しましたが、なかなか記載できなくすみません。いつブログに載せるのかという問い合わせもあり、ようやくですが掲載させていただきます。

実は、その理由の主旨はすでに昨年12月29日のブログ「令和3年度税制改正大綱(つづき)」で記載したのですが。そのブログの中で、「かぜ症候群に関してはOTC薬と医療とはすでにその利用において棲み分けがされており、税制適応範囲の拡大が「療養の給付に要する費用の適正化」につながるとは個人的には思えません」と主張しているものがその主旨です。問題は風邪症状が出た際の、生活者の行動様式です。いくつかの報告からその行動様式を見てみたいと思います。

21 世紀社会デザイン研究(2013)に影山は企業の勤務者およびその家族の日常生活の中で経験する身体の不調を解決するまでの対処行動とその意思決定過程について行った148名の調査を発表しています。これによると、生活者にとって、セルフメディケーションとは、文字通りの自ら(セルフ)行う医療(メディケーション)ではなく、発症したことへの対処戦略としての日常の生活行動の一部で、習慣的であると考察しています。また、風邪のような日常的な症状の場合は、受診であっても、医療というよりも、セルフメディケーションと同じく、症状への対処戦略としての生活行動の一つとして意識されていると考察しています。つまり、セルフメディケーションと受診行動は、生活者にとってはどちらも症状を解決するための生活上の戦略であり、ことさらセルフメディケーションか、医療かという意識はなかったとの意味です。さらに、生活者がセルフメディケーションで症状を解決するには、医学的視点と生活への支援が必要だと述べていて、これは、セルフメディケーション推進に関する有識者検討会の厚労省資料にある、「セルフメディケーションを適切に進める前提としてセルフケアの推進」と同じ意議です。

日本プライマリ・ケア連合学会誌(2019)に阪本らは風邪に対する認識の現状と受診信念との関連について、茨城県で市健診受診者1,079名に対し,風邪に対する認識や対処行動について無記名自記式質問紙で調査した結果を報告しています。報告では風邪をひいた際のセルフケアや風邪に対する認識において、「点滴や注射を受けると早く治る」、「かぜをひいたら,医師の診察を受けるべきである」が7割を超え肯定的であり、受診信念があることに有意な関連が見られています。医療機関を受診しても風邪の自然経過は変えられないにもかかわらず、医療機関への受診が病状悪化を防ぎ早く治るという有益性の認知が,受診という障害性(時間や費用が掛かる)の認知を上回った結果であると考察されています。この受診信念を踏まえ、風邪での適切な受診行動のため、受診の判断について普段から医療従事者などに相談できるような仕組みを構築していくことと、住民のヘルスリテラシー向上に向けた取り組みの必要性を主張しています。これも前出の報告と同じく、風邪の適切な受診行動にはセルフケアの概念が必要だとの主張です。

社会保障研究(2002)に大日らは首都圏と関西圏1,249世帯における調査から軽疾患における価格弾力性の推定を行っています。つまり軽疾患における価格弾力性が高ければ、医療の自己負担率を上げることにより、また、医療以外にインセンティブをつけることにより、セルフメディケーションなどの医療以外にシフトする可能性が高いと推測されます。結果は、風邪や肩や首筋のこりは軽疾患の中でも価格弾力性が低く、医療の自己負担の増加によるセルフメディケーションへの移行の確率は低いことが示されています。つまりセルフメディケーション税制の様なインセンティブでは、風邪で受診している生活者をセルフメディケーションに移行できないということです。

また、これら論文では、風邪症状が出たときの適切な受診行動を促すためには、セルフケアが必要だとの主張で、こちらも厚労省セルフメディケーションを適切に進める前提にはセルフケアが必要との主張することと同意議です。

これら報告からわかることは、生活者が風邪症状になった時は、医療を受診するかセルフメディケーションとしてOTC薬を利用するかは、その人の受診信念や対処方法の習慣で決まり、インセンティブなどの経済的要因の影響は少ないことが理解できます。

セルフメディケーション推進に関する有識者検討会において風邪の諸症状において、拡充対象として、アセトアミノフェン(解熱鎮痛成分)とコデインリン酸水和物(鎮咳成分)が討議されましたが、仮にこの二つの成分が、セルフメディケーション税制に追加となっても、生活者の行動変容は起こらないと考えられるのがご理解できたでしょうか。

一方、風邪の諸症状において、アセトアミノフェンコデインリン酸水和物が、セルフメディケーション税制に追加となって、メコバラミンが外れたとして、これら成分が入った製品群の販売額が全く変化しなかったら、これはセルフメディケーション税制が全く役に立っていないことを証明することとなりますので、今回の対象品目の増減は両刃の剣ですね。私は今回のセルフメディケーション税制の改正は、生活者の行動には全く影響がないと考えていますので、市場も動かないと考えていますが。

まさに、大山鳴動して鼠一匹ですね。