OTC薬協刷新懇談会

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第2回セルフメディケーション推進に関する有識者検討会の厚労省資料には驚きました

3月10日に第2回セルフメディケーション推進に関する有識者検討会が開催されました。今回はwebで公開されましたのでそれを確認して、また、今回もドラビズon-lineに詳細に会議の様子が掲載されていましたので、それを参考にしてコメントさせていただきます。

タイトルにも記載させていただきましたが、医政局経済課から出された資料の12枚目に「セルフメディケーションを適切に進める前提としてセルフケアの推進」があげられ、厚生労働省の部局横断的な体制は「セルフケアの推進及びセルフメディケーションの適切な実施」を検討すると記載されています。これには驚きました。これまで私はセルフメディケーションでは健康寿命の延伸は不可能で、その効果はQOL改善など限定的であり、国民の健康を考えるならセルフケアの推進に取り組むべきと、セルフケアの重要性を主張させていただいてきましたが、それと同じ趣旨が厚労省から提示されました。

実はこの12枚目の図とほぼ同じ図が、昨年11月12日開催の第133回社会保障審議会医療保険部会において「薬剤自己負担の見直しについて」という資料で厚労省から提示されています。図のタイトルは「セルフメディケーションの推進に際して取り組むべき事項」で健康に関する関心・正しい理解、予防・健康づくりからOTC薬の適切な使用に結び付けるというもので、図の中にはセルフケアの文言はありませんでした。それが今回のセルフメディケーション推進に関する有識者検討会では、図のタイトルが「セルフケアの推進及び適切なセルフメディケーションの実施に向けた課題」と、タイトル自体にセルフケアの文字が入り、健康に関する関心・正しい理解、予防・健康づくりはセルフケアと定義されています。しかも、セルフメディケーションを適切に進める前提はセルフケアとはっきり宣言されています。さらに、厚労省において設置される部局横断的な体制においては、セルフケアの推進及びセルフメディケーションの適切な実施を検討すると明記されています。今までセルフケアの言葉は厚労省では使用されていなかったと思いますが、セルフケアの重要性を認識した大きな転換を迎えたと言えます。

セルフメディケーションの前提としてセルフケアが重要だとの主張は以前もあったのですが。その一つは今年2月2日に出された「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議中間とりまとめ」において「4.スイッチOTC化が可能と考えられる 医薬品の考え方」の「2今後スイッチOTC化が考えられるもの」の項目の中で、「更なる薬効群のスイッチOTC化を進めていくためには、OTC医薬品を取り巻く環境の整備がより強く求められている。」とされ、さらに、「これらの環境の整備に関する要件が整えば、 新たにスイッチOTC化が考えられる。」と述べられており、新たなスイッチOTC化のためには、セルフケアの推進が必須だと述べられています。セルフケアが重要だとの主張の予兆ではあったのですが、残念ながらこの時はセルフケアとの言葉は使用されていませんでした。これほど明確に厚労省がセルフケアという言葉を使用してその意思表示をしたのは、これが初めてではないでしょうか。素晴らしいことです。

これに対し黒川理事長からセルフメディケーション推進に関する有識者検討会は令和3年度税制改正大綱に基づきセルフメディケーション税制の見直しを目的に開催されており、また、昨年7月17日に閣議決定された規制改革実施計画においてセルフメディケーションの促進策を検討するために、厚労省に部局横断的な体制を構築するので、有識者検討会や部局横断的な体制では、セルフケアではなく、セルフメディケーション税制とスイッチOTC化を中心に議論すべきと主張しましたが、菅原座長はじめ医師会、薬剤師会など多くの構成員からセルフケアへの取り組みが重要との意見が出され、黒川理事長の意見は無視された結果となりました。

また、セルフメディケーション税制の対象から除外するものや追加するものに関する議論は、各マスコミが報道している通りですが、除外するものの検討で、黒川理事長はメコバラミンの除外に反対意見を述べましたが、宗林氏からはメコバラミンは末梢神経障害治療薬であっても、その配合剤は総合ビタミン剤で治療薬とは認められないと否定され、別所氏より対象にするかどうかは、医療からの代替えとして行動変容が起きるかどうかで判断すべきとの意見が出され、さらに、菅原座長のまとめでも、メコバラミンは一旦除外して、ビタミン剤全般として医療費の減少効果が認められれば、また対象としたらいかがかという、現実にはほぼ不可能な提案で、黒川理事長の除外しない提案は却下されました。黒川理事長はOTC薬協にこの結果を持ち帰って武田さんやエーザイさんにどのように説明するのでしょうか。心配になります。素直に力不足でしたと謝るしかないですね。

対象に追加するものも、黒川理事長から「胃腸の諸症状」も含めて追加してほしいとの要望がされましたが、報道されている通り菅原座長から一蹴されました。「風邪の諸症状」に関しては医師会の宮川先生から、かぜ諸症状は新型コロナウイルス感染症の初期症状と重なり、対象としてふさわしいかとの疑問が呈され、症状に関連する団体や学会で絞り込み作業が必要だと発言されました。さらに、菅原座長がまとめで、令和3年度税制改正大綱においては「療養の給付に要する費用の適正化の効果が著しく高いと認められるもの(3薬効程度)」とされていることに触れ、3薬効程度の対象は政府が決定するので、有識者検討会は広くカバーすることを要請し、厚労省財務省との相談の上決定されると述べています。昨年12月11日のブログ「令和3年度税制改正大綱」にも記載しましたが、今回の税制大綱の趣旨は「適応対象範囲は効果がある薬効だけに絞り、全体としては縮小するとの意思表示」です。しかも第1回の有識者検討会では座長の菅原氏がまとめで、「自覚症状に応じて服薬の開始などが安全・容易にできるものが拡大に適切」と有識者の多くから意見が出された安全性の視点の重要性が主張されています。医師会は「風邪の諸症状」においてこの点に一石を投じているわけで、税制改正大綱では「具体的な範囲については、専門的な知見を活用して決定する。」とも記載されており、これらを総合的に判断すると、風邪の諸症状に解熱鎮痛剤としてアセトアミノフェンが記載されていますが、これも対象に追加されることは危ないかもと思ってしまします。

今回のセルフメディケーション推進に関する有識者検討会において、黒川理事長からの、セルフメディケーションを中心に議論する提案やメコバラミン対象除外への反対や、対象薬効を幅広く追加要望に関して、ことごとく却下され、可哀そうなくらいでした。まさに孤立無援です。今年の5月のOTC薬協の総会で、一年延期した理事長任期が切れる前に、このような成果の出ない役を担われ、ご苦労様でしたとしか言いようがありません。

今後の検討事項としては「セルフメディケーション税制の効果検証」と、「税制以外の施策の在り方」としてセルフケアを前提としたセルフメディケーションの適切な実施を促すための政策が検討されます。その検討では、①セルフケアの推進(健康に関する関心・正しい理解、予防・健康づくりの推進等)、②OTC薬の適切な選択・使用に関する助言を含む国民からの相談体制の構築(かかりつけ医、健康サポート薬局やかかりつけ薬局・薬剤師の普及促進等)、③メーカーによるOTC医薬品の分かりやすい情報提供の3点について具体的な議論がなされる見込みです。つまり次回以降の論点は、セルフメディケーションではなくセルフケアに移ってゆくとのことです。この裏には厚労省セルフメディケーション税制をいくら変えても実効力はなく、根本的な健康・医療問題解決のためには、セルフケアに取り組むしかないとようやく決断したのだと思います。2019年7月12日のブログでWSMIがGlobal Self-Care Federation(GSCF)に組織名称が変わったことを取り上げましたが、厚労省もようやくセルフメディケーションという、日本だけのガラパゴスの世界から、グローバルと同じようにセルフケアの推進という標準に移行したというべきでしょう。

OTC薬協としてセルフケアの推進に対しどのような意見を出されるか大変興味のあるところです。セルフケアの推進に関し全く考えがないようでしたら、OTC薬協からお願いされれば、助言しないわけではありませんが。