OTC薬協刷新懇談会

OTC薬協刷新懇談会はOTC薬協の事業をみんなで考える会です

OTC薬協の適正使用に対する認識について

驚きのメールがOTC薬協から出されています。

以下に12月21日にOTC薬協事務局から出されたメール(タイトル「NHKのTV番組」)を掲載します。 

『各位 いつもお世話になっております。日本OTC医薬品協会○○です。既にご存知のメンバーもいらっしゃると思いますが協会にも問い合わせがありました。OTC医薬品についてのあまり良くない内容のようです。NHKの番組は12月23日放送の予定と思われます。放送日時(予定):2020年12月23日(水) 午前8:15~午前9:55(100分)タイトル:あさイチ「今こそ気を付けたい!身近な“薬”とのつきあい方」番組内容(以下省略)』

OTC医薬品についてのあまり良くない内容のようです」という表現には驚きました。

番組予告サイトのURLが添付されており、その内容を確認しても、OTC医薬品の適正使用を解説する番組で、「OTC医薬品についてのあまり良くない内容」は確認できませんでした。

https://www2.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2020-12-23&ch=21&eid=34294&f=1548

そこで23日(水)放送のNHKあさイチ「くすりとの上手なつきあい方」を視聴しました。市販薬パートと処方薬パートがありましたが、前者においては、薬剤師の先生より「症状がないのに予防的に市販薬を使うのは避けてほしい」「長期連用の目安は、薬剤や状況によって異なるが2、3日のケースもあるので、効果がなければ相談してほしい」など、当たり前のコメントをしていました。

適正使用の重要性ではNSAIDs胃潰瘍、薬物乱用頭痛を例に長期連用と多剤併用のリスクを紹介し、添付文書をよく読み、効果がなかったり気になることがあればすぐに医師、薬剤師に相談をと、また、市販薬の依存症では若者中心にSNSを介して広がっていることや、対応として本人や家族で抱え込まず、精神科医や相談窓口に相談してほしいことが述べられ、さらに覆面調査では約30%のドラッグストアでは販売方法が不適切と販売現場での問題の指摘もなされていました。HNKのHPに番組の紹介がされていますので、以下にURLを紹介します。

https://www1.nhk.or.jp/asaichi/archive/201223/1.html

このNHKの番組はOTC医薬品の適正使用に関して正面から取り組んでおり、OTC薬協としてOTC医薬品の適正使用を広報いただいたと歓迎すべきで、「OTC医薬品についてのあまり良くない内容」と問題視する方がおかしいと思います。番組の中で、『「市販薬」=「効果も弱い」「安全」・・・は大きな間違い!』と注意喚起されていますので、市販薬の注意喚起=売り上げの減少との観点で、OTC薬協が問題だとの感じていることは明らかです。

そもそもOTC医薬品産業の発展のためには、適正使用がベースになければならないことは明白です。適正使用をないがしろにして売り上げ至上主義の考えで進むと、OTC医薬品産業は発展するどころか、国民から社会的責任を果たしていないと非難され、産業として衰退し、社会から退場させられることになります。もし、協会に参加している企業が売り上げ至上主義に走り、OTC医薬品の品質や適正使用をないがしろにして、売上だけを求める行動があれば、その姿勢に歯止めをかけることは、業界団体に課せられた大きな使命だと思います。その一環として広告審査会などを運営したり、プロモーションコードを作成したりして、OTC薬協として活動を行っていると考えていました。

しかし、最近、OTC薬協自体が、売り上げ至上主義に傾き、本来の協会の役割、つまり、適正使用を啓発し、健全な業界の発展に寄与する役割を放棄したように見えます。

その一端が、7月6日のブログ「まさにデジャヴ~セルフメディケーション税制プレス向けwebセミナー~」においても指摘をさせていただきました。その中で、『「セルメ税制に関する生活者16 万人調査」の中でも、「重い症状」でもOTCが使用されていると、恥ずかしくもなく報告していますが、「重い症状」でOTC薬品を使用することは適切ですか?特に「頭痛」や「生理痛」で漫然とOTC医薬品を使用する危険性を認識していますか?二次性頭痛などの危険性を考えると、重い症状の頭痛に使用させるのではなく、きちんとトリアージができるようにすべきだと思います。適正使用をないがしろにすると命取りになります。全く生活者の健康を守る意識が欠如しています。それは協会活動が、自分たちの売り上げを上げることだけに終始しているからです。今の時代、CSRの思想がない企業は、社会から退場を突きつけられます。協会活動は公益を目指しているのですから、更に生活者を中心に考える必要があります。』と記載しました。

OTC薬協の中で適正使用をないがしろにしている今の風潮は問題です。セルフメディケーション税制やスイッチOTC推進で、売り上げを上げる活動も重要かもしれませんが、年も改まることですので、ここはしっかりと、OTC薬の適正使用を広報する活動の在り方も、基本に戻り再点検していただきたいものです。まずは、OTC薬協の内部の意識改革から。

今年一年お付き合いいただき有難うございました。来年はもっと頻回にブログを更新したいと思います。来年もお付き合いいただきますよう、よろしくおねがいします。良いお年をお迎えください。

令和3年度税制改正大綱(つづき)

令和3年度税制改正大綱に関するブログを読んだ方から、内容が良く理解できないなどいくつかの質問を受けました。自民党の制改正大綱が出されてすぐに急いで書いたため、わかりにくい点があったと反省しています。

21日に令和3年度税制改正の大綱が閣議決定されましたので、それも踏まえて追加の記載をさせていただきます。

前のブログで『今年7月17日閣議決定された「規制改革実施計画」で一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大が求められましたので、そのおかげでセルフメディケーション税制は土俵際で残ったと言えると思います。』と記載しましたが、なぜスイッチOTC化の推進とセルフメディケーション税制が関連しているのかわからないとの質問を受けましたので、まずはこの点から。

令和3年度税制改正の大綱の概要が財務省のHPに掲載されていますが、その中に各省庁からの令和3年度税制改正要望が併せて掲載されています。セルフメディケーション税制は厚労省の医政局経済課が要望書を提出していますが、その中で7月17日に閣議決定された骨太の方針の『4.「新たな日常」を支える包摂的な社会の実現』の中でセルフメディケーション税制の推進が取り上げられたことをもとに、「医療資源の有効活用」の観点から、「軽い病気になった人が、医療機関に行くのではなく、薬局でスイッチOTC薬を購入することへのインセンティブ」を施策の必要性の項で述べています。すなわち、コロナ渦において軽疾患はスイッチOTC薬で治すことを推奨し、医療機関受診を抑制することにより、医療への負担を軽減させる目的で、セルフメディケーション税制の継続が必要だとの主張です。それと、同じ7月17日に閣議決定された規制改革実施計画の『一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大』を見据えて、「スイッチOTC薬の供給量を増やすインセンティブ」としての税制継続の2つが施策の必要性として提示されています。

つまり、新型コロナウイルス感染症と規制改革実施計画の2つにより、セルフメディケーション税制は土俵際で生き残ったと考えられます。

また、本制度の効果検証のところで、国が求めているエビデンスはどのようなものか、また、それが「大きな宿題」とはどのようなことかとの問い合わせもいただきました。国が求めているエビデンス財務省の考えを理解することが重要だと思いますので、財務省と話をしないと正確なものは見えてきません。しかし、財務省の考えは令和3年度税制改正の大綱に明記されている、「療養の給付に要する費用の適正化」だと考えられます。つまりセルフメディケーション税制により医療費がいくら減額されるかを明確に示せとの意思表示です。当然その前提としてセルフメディケーションにより、医療にかかるのと同等以上の有効性や安全性を担保する必要があります。

一般的にはセルフメディケーション税制の医療経済へ与える影響を評価しようとすると、保険診療セルフメディケーションとをその有効性、安全性、利便性、QOL、経費面で直接比較する必要があります。ICER(Incremental cost-effectiveness ratio: 増分費用効果比)が評価できればいいのですが。評価方法としてもRCT(randomized controlled trial:ランダム化比較試験)のような手法が最適ですが、RCTは時間もお金も膨大になるので、適切にデザインされた観察研究が現実的でしょう。モデルとしてはマルコフモデルが適切かもしれません。これらを考え合わせて、ブログに記載した「最低3年間の期間と、少なく見積もっても数千万円、下手すると億を超える費用が必要」と見積もったのです。

これをOTC薬協の中で議論してゆかなければならないので、このエビデンスをとることを理解できる方を集め、プロジェクト化した上で、医療経済専門家と実施する必要があります。一大仕事ですので、OTC薬協が全力で取り掛かっても出来るかどうかは定かではありません。現状の組織体制では無理だと思いますし、その意味で、セルフメディケーション税制の再延長は無いだろうと予測しています。

しかし、先回のブログ以降、OTC薬協が他団体に対し助けてほしいと依頼しているとの情報もあり、危機感は感じているのでしょうか?その一方で、総合感冒薬はすべてセルフメディケーション税制の対象になると喜んでいる向きもあります。これに関しても令和3年度税制改正の大綱に「上記の具体的な範囲については、専門的な知見を活用して決定する。」と明記されています。前のブログの繰り返しになりますが、税制適応範囲の拡大が「療養の給付に要する費用の適正化」につながるのかを証明する必要があります。かぜ症候群に関してはOTC薬と医療とはすでにその利用において棲み分けがされており、税制適応範囲の拡大が「療養の給付に要する費用の適正化」につながるとは個人的には思えませんが、もしそれを証明できたとしても、医師会との議論で問題視が予想されるいくつかの論点において、理論的な反論が今のOTC薬協において可能だとはとても思えません。

このように考えてゆくと、この税制の継続や適応の対象の拡大は、かなり難しいと感じています。ま、頑張ってくださいとしか言いようがなありません。

令和3年度税制改正大綱について

しばらくブログをアップすることを訳あって控えていましたが、本日自民党税制調査会で令和3年度税制改正大綱が決定され、セルフメディケーション税制についても記載されましたので、ブログを掲載することにしました。ある読者の方から、なぜ最近ブログをアップしないのかとお叱りも受けましたが、決してサボっていたわけではありません。

https://www.jimin.jp/news/policy/200955.html

以前ブログで「セルフメディケーション税制は国も行政もCOVID 19対応で大変な中、こんなshabbyな税制に時間を取られる事はしたくないでしょうから、誰も注目せず、変えることも潰すことも手間なので、再度期間延長で継続されるが私の予想です。」と記載しましたが、予想はほぼあっていました。結果としての予想はほぼあっていたのですが、税制の対象の縮小と再延長は無いという布石まで打たれてしましました。これには驚きました。

令和3年度税制改正大綱の中心は、予想通り、新型コロナウイルス感染拡大による景気悪化に対応するため、住宅ローン減税やエコカー減税など、個人消費を増やす目的の減税と、国が目指すデジタル社会、グリーン社会への投資が中心です。

その中でセルフメディケーション税制は「経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し」の項目で記載されています。今年7月17日閣議決定された「規制改革実施計画」で一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大が求められましたので、そのおかげでセルフメディケーション税制は土俵際で残ったと言えると思います。

土俵際で残ったことをもってOTC薬協では最低限の成果は上げたと評価するかもしれません。さらに勘違いで「3薬効程度対象が拡大されそうだ」とか「健康診査等の書類の添付が不要となって、要望通り手続きの簡素化が図られた」と喜んでいる能天気な方がいるかもしれません。

しかし、よく税制改正大綱を読んでください。

セルフメディケーション税制については、税制改正大綱の16ページと33ページに記載があり、概要は下記の通りです。

1.5年延長し、本制度の効果検証を行う

2.対象製品のうち、効果の低いものは対象から除外

3.医療費抑制効果が著しく高い製品は3薬効程度新たに対象に追加

4.健診等の書類提出は不要

1.については、5年間でデータを集めて議論し、効果が認められないと再延長は無くなるということを示しています。ではだれがKPI設定を行い、検証の計画を立て、実際に効果検証を実行するのですか?財務省ですか?厚労省ですか?財務省厚労省が実施するわけはないですよね。当然行うのは業界ですし、しかも効果検証は明確に「費用の適正化の効果」と明記されています。これを行おうとすると最低3年間の期間と、少なく見積もっても数千万円、下手すると億を超える費用が必要です。これはやりようはあるにしても、あまりにも大きな宿題を突き付けられたと言うしかないと思います。以前からこのブログでも主張しているようにこの税制改革要望のためには「税制においても、国民のため、国のため、そして産業界活性のために役立つことが理論的に説明できているか」の視点が必要で、理論的に説明するためには、どうしてもエビデンスが必要だと主張しています。今回は真っ向から国からエビデンスが要望されたと言うことです。考えている暇はありませんので、危機感をもってすぐにプロジェクトを立ち上げ、効果検証を行う準備に入った方が良いと思います。

2.と3.については、よく文章を読んでみてください。除外する方は「効果が低い」と表現されているのに対し、加える方は「効果が著しく高い」とされています。しかも加えるほうには「3薬効程度」とリミテーションが掛かっています。明らかに除外する品目はハードルが低く、加えるほうはハードルが高くなっています。いわゆる霞が関文学の文脈で考えると、適応対象範囲は効果がある薬効だけに絞り、全体としては縮小するとの意思表示です。さらに、「その具体的内容等については専門的な知見も活用し決定する」と記載されています。「専門的な知見」はだれが持っているのですか?当然日本医師会が関与してこの税制の対象範囲が決められることを示しています。OTC薬協が意見表明できる機会があるとしても、医師会と議論してロジカルにその必要性を主張しなければなりません。これもすぐにプロジェクト化して、評価モデルを考え、シミュレーションを実行し、理論武装すべきです。そうしないと医師会のシンクタンクである日医総研に、簡単にねじ伏せられます。

4.は業界の要望に配慮したというより、行政手続きの電子化、簡素化の流れに沿ったものと考えるのが適切です。今回の税制改正大綱においても「税制においても、国民の利便性や生産性向上の観点から、わが国社会のDXの取り組みを強力に推進する」と述べられており、ほかの税制でも同じように手続きの簡素化がうたわれています。

税制改正大綱を読んで、考えられることを述べました。

今回の改正に危機感を持って臨まないと、セルフメディケーション税制は終わりを迎えます。OTC薬協自身で頑張るか、それともOTC薬協で対応が無理だと認識したら、セルフケア税制に包括してほしいとお願いしたらどうですか。その方が確実にOTC薬の税制は残ります。

控訴提起のお知らせ

私は、上原明氏(大正製薬ホールディングス株式会社代表取締役社長)を被告とした名誉棄損に関する訴えを、東京地方裁判所に提起していましたが、残念ながら本年8月25日訴えは棄却されました。

しかし、原判決は私の表現の自由を軽視し、深く検討することなく、被控訴人の主張そのままに判決を言い渡したものですから、高裁において十分に検討のうえご判断いただきたいと思い、本年9月4日に控訴状を東京高等裁判所宛提出しました。

ここにお知らせさせていただきます。

議事録の改ざん?

9月8日には延期となっていた第56回定時総会が開催されて、会則の変更について審議されるようですが、会則改訂に関しては2月16日と17日の2日にわたって問題点を指摘させていただいた後、各社意見を出され、修正もされていますので、多くは述べませんが、法人法の趣旨に沿っていないと指摘した第24条の(役員の解任)で、総会で選任された理事を、理事会に解任権限を持たせるという、任命権と解任権を別の会議体が持つおかしさに気が付きませんか?また、全くその手続き等が規定されていないなど色々と不備が散見されます。正副会長会の権限が縮小したことは評価できますが。

ま、事務局の運営もいい加減ですから、仕方のないことかもしれませんが。

事務局運営のいい加減さの一例を。

8月3日に235回理事会議事録が公開されて、「??」と思った点がありました。それは審議事項1の「人事案件」に関して、事業活動戦略会議の座長が、西井氏から平野氏に交代するくだりです。議事録には「以上について、何れも意義なく了承とされた。」と記載されていますが、理事会資料1の「人事等」〔1〕のタイトルが、「事業活動戦略会議座長交代(報告)」となっており、私が当日出席した方から聞いた話でも、事業活動戦略会議の座長交代は報告事項だと明言されて、しかも「本日の正副会長会で新たに任命されました。」と報告があったようです。

事業活動戦略会議座長の任命権に関しては「事業活動戦略会議・運営規定」によれば、「座長は、正副会長にて人選し、理事会の承認を得ることとし、」となっており、任命権は理事会にあることが明記されています。人選も会則で規定されていない「正副会長会」なるものではなく、「正副会長にて」です。

当日は全く会則や規定(本来は規程と記載するべきで、今回ようやくすべて規程の文言に統一されましたが)を理解せず、事業活動戦略会議座長の交代を、正副会長会で決議されたものとして、理事会報告事項としてしまったものです。

恐らく議事録を作成する段階で誰かに指摘されたか、事務局自ら気が付いたかは定かではありませんが、配布された議事録では、本来の規程通り理事会の承認を得たような形で記載してあります。

このような会則や規程に沿わない運営が行われた場合、本来は会則や規程に応じた手続きとして、改めて理事会で決議が行われるべきです。会則や規程は会の運用を定めていますので、当然これらに則った運営がされるべきで、それを、全く指摘がないことをいいことに議事録だけ決議が行われたように記載することは、議事録の改ざんと指摘されてもおかしくありません。

本来は今回のような指摘は監事が行うべきで、全くガバナンスが働いていないと言わざるを得ません。

いくら会則を改定したところで、それに沿った運営がされず、事務局の都合のいいように運営されるなら、会則自体の意味がありませんね。

セルフメディケーション税制改正の重大なチャンスを逃した気がします

前のブログで骨太方針2020年の話をしましたが、7月17日の閣議で骨太方針2020年は決定されました。決定された骨太方針にもしっかりと原案通り「一般用医薬品等の普及などによるセルフメディケーションを推進する。」と記載されました。しかし、前のブログでも記載したように今年の骨太方針2020年は異例です。

これを象徴するように新聞各紙は記事見出しで、日経が「役割終えたか骨太方針の20年」や「総花的で言いっ放しの骨太なら要らぬ」と、また朝日は「骨太方針原案存在意義が疑われる」と手厳しい評価をくだしています。各紙とも、新型コロナウイルスの感染拡大で社会が大きく変わろうとしているのに対し、政府として明確な道筋を示していないとの非難です。

この流れを考えると、従来の骨太方針に対する業界の理解、つまり、「骨太方針に書き込めば予算を確保できる。」という経験則は、おそらく今年は当てはまらないと思います。今年の骨太方針は残念ながら「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、明確な今後の方針」というよりは、「各省庁に配慮して既存施策の多くがそのまま盛り込まれ、結果として総花的な施策が残ってしまった」とみるほうが正しいと思います。しかし、実際の予算立案に際しては、総花的な政策に対し予算付けができるほど財政的な余裕は無いとみるのが普通です。「セルフメディケーションを推進」は明らかに総花的な政策の一つです。骨太方針には掲載されましたが、全く実効力はないと思います。

これから政府の政策として、新型コロナウイルス感染対策(感染拡大防止や医療提供体制の確保など)をとりながら、経済を回していくための「新たな日常」を実現することが求められていますが、業界としてもこのコンテキストに沿った政策を提言できないと、全く相手にもされないと考えています。

セルフメディケーション税制を改革するヒントとして、これも日経新聞の7月22日朝刊の「私見卓見」に寄稿された、株式会社 法研代表者東島俊一氏の主張のように、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、健康の維持のためセルフメディケーション税制に、予防接種や定期健診、さらにはスポーツクラブなども含める提言のように、喫緊の問題に対する解決策としての対応を提言しなければ、国が求める提言からは大きく外れています。国や国民のためになる提言でないと取り上げられるはずがありません。同じ意味合いで、7月22日の日刊薬業電子版に掲載された、日本セルフケア推進協議会からの「セルフケア税制の提案」も同様の趣旨の提案ですので、皆さんもよく、その提言内容を研究されたらいかがですか?いかにOTC薬協で考えていたセルフメディケーション税制改正提言が、陳腐で旧態然として意味のない提言であるかが、解ると思います。

5月13日のブログで、新型コロナウイルス感染症を受け、医療崩壊を招かないために、自分の健康を自分で守るセルフケアをどのように社会実装できるか。それをデザインし実行に移す必要があるという趣旨で記載しましたが、業界団体は、そのような観点で、現在の社会が抱える問題点の解決とともに、さらに業界の発展も図ってゆく政策提言ができないと、その使命を果たしていないと言えるでしょう。

7月17日にはセルフメディケーション税制で、対象医薬品を全てのOTCに拡大すること、手続きの簡素化、控除額の拡大、制度の恒久化を、2021年度税制改正要望として加藤厚生大臣あて提出したとのことですが、昨年から全く変わらない要望書を出して、それで満足しているOTC協会に対し、皆さんはそれで良いと思っていますか?新型コロナウイルス感染症への対応が最重要課題として求められている中、このような意味のない提言を、恥ずかしくもなく提出すること自体、セルフメディケーション税制改正の重大なチャンスを逃していることに気が付きませんか?

骨太方針2020年原案に「セルフメディケーション」が掲載されました

おめでとうございます。

骨太方針2020年原案にセルフメディケーションの文言が掲載されました。

昨年は骨太原案には記載されませんでしたが、その後国会議員の先生方への工作が実り、政調全体会議・経済成長戦略本部合同会議では何とか復活したと聞いています。2019 骨太方針では「一般用医薬品等の普及などによりセルフメディケーションを進めていく中で、健康サポート薬局についても、その効果を検証しつつ取組を進める。」と記載されました。昨年ブログにも記載しましたが2年連続「健康サポート薬局」推進の枕詞でした。ちなみに2018年は「セルフメディケーションを進めていく中で、地域住民にとって身近な存在として、健康の維持・増進に関する相談や一般用医薬品等を適切に供給し、助言を行う機能を持った健康サポート薬局の取組を促進する。」との言葉でした。

ところが骨太方針2020年の原案では31頁に「一般用医薬品等の普及などによるセルフメディケーションを推進する。」と「健康サポート薬局」の言葉はなく単独で「セルフメディケーションを推進する。」とはっきり明記されました。

本日のOTC薬協の理事会では恐らく「やった!やった!これでセルフメディケーションは進展する。セルフメディケーション税制も改正要望実現に向け大きな前進だ!」と大喜びする人がいる気がします。

ところで今年の骨太方針2020年の原案は異例です。昨年は6月11日に出された原案が今年は7月8日とおおよそ1カ月遅れで、ページ数も昨年は72頁が今年は約半分の35頁です。皆さん想像がつくように今年は新型コロナウイルス感染症の対策対応のため、作成が大幅に遅れ、内容も十分検討されたものとはいいがたいものです。しかも新型コロナウイルス感染症を受け、冒頭の第1章のタイトルからして、「新型コロナウイルス感染症の下での危機克服と新しい未来に向けて」となっています。

このような中「セルフメディケーションを推進する。」の文言は、『第3章 「新たな日常」の実現』の中の、『4.「新たな日常」を支える包摂的な社会の実現』、『(1)「新たな日常」に向けた社会保障の構築』、『② 「新たな日常」に対応した予防・健康づくり、重症化予防の推進』の中で使用されています。その中では予防や健診、オンライン健康相談、社会的処方、歯科口腔保健などの後、何ら脈絡もなく「一般用医薬品等の普及などによるセルフメディケーションを推進する。」の言葉が使われています。

これに対する解説もないので、この文言が何を目的としているのかはわかりませんが、この文脈からは「内閣府規制改革推進会議が進めるスイッチOTC化の推進」とみるのが普通でしょうか。

また、骨太方針原案の冒頭部分には「新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた現下の経済財政状況」の項目の結論として「我々は、時代の大きな転換点に直面しており、この数年で思い切った変革が実行できるかどうかが、日本の未来を左右する。」と記載されており、さらに、「今回の感染症拡大は、各国のいわば脆弱な部分を攻めてきており、我が国の場合も、その課題やリスク、これまでの取組の遅れや新たな動きなどが、改めて浮き彫りとなった。」と述べ、デジタルトランスフォーメーション(DX)により改革を進める方針が随所に現れています。

2020年5月13日のブログで『最近「withコロナ」や「postコロナ」対応が言われ始めています。Key wordは「SDGs」や「Sustainability」。パンデミックになっても医療崩壊を招かないために、自分の健康を自分で守るセルフケアをどのように社会実装できるか。それをデザインし実行に移す必要があると思います。幸いこの連休は外出もままならなかったため、ゆっくりと考える時間がありました。もともと日本の医療やヘルスケア産業は近々paradigm shiftを迎えると思っていますが、このCOVID-19の影響で、その時期がずいぶん前倒しになる動きがあり、急いで対応行動をとらないといけないと思います。agileに対応しないと、世の中の流れから、大きく後れを取ってしまうと危機感を感じます。』と記載しましたが、まさに同じ考えを骨太方針に見た気がします。早々に変革が訪れ、遅れをとる危機感を強く感じ、最近そのための活動を始めたところです。

OTC薬協ではセルフメディケーション税制が今年最大の事業だと取り組んでいるようですが、国は今年の税制大綱で一番の課題は、新型コロナウイルス感染症対策のための補正予算で発行する約57兆円の国債を、今後どのように処理するかだと思います。東日本大震災の際に導入された「復興特別税」のような増税が検討されるでしょうから、セルフメディケーション税制のようなshabbyな税制に時間をかけることなど到底考えられません。OTC薬協はそのあたりまで考えて行動していますかね。

「サイロ・エフェクト」に陥っているOTC薬協にそれを期待することは無理だと思いますが。