OTC薬協刷新懇談会

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令和3年度税制改正大綱(つづき)

令和3年度税制改正大綱に関するブログを読んだ方から、内容が良く理解できないなどいくつかの質問を受けました。自民党の制改正大綱が出されてすぐに急いで書いたため、わかりにくい点があったと反省しています。

21日に令和3年度税制改正の大綱が閣議決定されましたので、それも踏まえて追加の記載をさせていただきます。

前のブログで『今年7月17日閣議決定された「規制改革実施計画」で一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大が求められましたので、そのおかげでセルフメディケーション税制は土俵際で残ったと言えると思います。』と記載しましたが、なぜスイッチOTC化の推進とセルフメディケーション税制が関連しているのかわからないとの質問を受けましたので、まずはこの点から。

令和3年度税制改正の大綱の概要が財務省のHPに掲載されていますが、その中に各省庁からの令和3年度税制改正要望が併せて掲載されています。セルフメディケーション税制は厚労省の医政局経済課が要望書を提出していますが、その中で7月17日に閣議決定された骨太の方針の『4.「新たな日常」を支える包摂的な社会の実現』の中でセルフメディケーション税制の推進が取り上げられたことをもとに、「医療資源の有効活用」の観点から、「軽い病気になった人が、医療機関に行くのではなく、薬局でスイッチOTC薬を購入することへのインセンティブ」を施策の必要性の項で述べています。すなわち、コロナ渦において軽疾患はスイッチOTC薬で治すことを推奨し、医療機関受診を抑制することにより、医療への負担を軽減させる目的で、セルフメディケーション税制の継続が必要だとの主張です。それと、同じ7月17日に閣議決定された規制改革実施計画の『一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大』を見据えて、「スイッチOTC薬の供給量を増やすインセンティブ」としての税制継続の2つが施策の必要性として提示されています。

つまり、新型コロナウイルス感染症と規制改革実施計画の2つにより、セルフメディケーション税制は土俵際で生き残ったと考えられます。

また、本制度の効果検証のところで、国が求めているエビデンスはどのようなものか、また、それが「大きな宿題」とはどのようなことかとの問い合わせもいただきました。国が求めているエビデンス財務省の考えを理解することが重要だと思いますので、財務省と話をしないと正確なものは見えてきません。しかし、財務省の考えは令和3年度税制改正の大綱に明記されている、「療養の給付に要する費用の適正化」だと考えられます。つまりセルフメディケーション税制により医療費がいくら減額されるかを明確に示せとの意思表示です。当然その前提としてセルフメディケーションにより、医療にかかるのと同等以上の有効性や安全性を担保する必要があります。

一般的にはセルフメディケーション税制の医療経済へ与える影響を評価しようとすると、保険診療セルフメディケーションとをその有効性、安全性、利便性、QOL、経費面で直接比較する必要があります。ICER(Incremental cost-effectiveness ratio: 増分費用効果比)が評価できればいいのですが。評価方法としてもRCT(randomized controlled trial:ランダム化比較試験)のような手法が最適ですが、RCTは時間もお金も膨大になるので、適切にデザインされた観察研究が現実的でしょう。モデルとしてはマルコフモデルが適切かもしれません。これらを考え合わせて、ブログに記載した「最低3年間の期間と、少なく見積もっても数千万円、下手すると億を超える費用が必要」と見積もったのです。

これをOTC薬協の中で議論してゆかなければならないので、このエビデンスをとることを理解できる方を集め、プロジェクト化した上で、医療経済専門家と実施する必要があります。一大仕事ですので、OTC薬協が全力で取り掛かっても出来るかどうかは定かではありません。現状の組織体制では無理だと思いますし、その意味で、セルフメディケーション税制の再延長は無いだろうと予測しています。

しかし、先回のブログ以降、OTC薬協が他団体に対し助けてほしいと依頼しているとの情報もあり、危機感は感じているのでしょうか?その一方で、総合感冒薬はすべてセルフメディケーション税制の対象になると喜んでいる向きもあります。これに関しても令和3年度税制改正の大綱に「上記の具体的な範囲については、専門的な知見を活用して決定する。」と明記されています。前のブログの繰り返しになりますが、税制適応範囲の拡大が「療養の給付に要する費用の適正化」につながるのかを証明する必要があります。かぜ症候群に関してはOTC薬と医療とはすでにその利用において棲み分けがされており、税制適応範囲の拡大が「療養の給付に要する費用の適正化」につながるとは個人的には思えませんが、もしそれを証明できたとしても、医師会との議論で問題視が予想されるいくつかの論点において、理論的な反論が今のOTC薬協において可能だとはとても思えません。

このように考えてゆくと、この税制の継続や適応の対象の拡大は、かなり難しいと感じています。ま、頑張ってくださいとしか言いようがなありません。